1ルームの部屋の、隅にしつらえられたキッチンでは換気扇が外に口を開けて
風の強いような日にはその羽根がごうん、ごうん、うなる。
その、唸り声に目を覚ました。外は嵐。
書きものを、しようと思ってパソコンに向かう、
深夜、川に面した窓の前の机に座ったけれど、
3秒ごとに気持ちは途切れる。
カーテンを開けた。
くろぐろとした闇に対岸のか細い明かり、ちらり、ほらり、
窓ガラスに打ち付ける雨は滝のように、眼前を流れた。
春が、荒ぶれている。
海に、山に、空に近いこの場所で、季節は決してさらりとは流れてゆかない。
剥き出しの強い意志で、その抵抗と対峙して、力強く移ってゆくんだ。
そういえば私の生まれ育った場所も、そんなふうだった、と思う。
山を越えて訪れる季節はふもとの町に強く吹き寄せ、
生々しい匂いを放って通り抜けていった。
世界は生きているんだねぇ。
当たり前みたいなこと、なのに忘れていたみたいなこと、思い出して。
小さないかだでくじらのお腹の中を、ゆらゆら泳いでいるみたいな気持ちになった。
春にはくじらの大あくび、風うずまいて雨そそぎ、
か細いいかだにしがみついて私はその
あたたかい、生きているものの息の匂いを嗅いでいる。